355784東京オリンピックの年、報知新聞で「ON五輪を行く」という連載企画があった。毎日、長嶋と王がオリンピックの競技会場をあちこち訪れ、感想を記事にするというものであった。2週間にわたるオリンピックの折り返しとなる10月17日、趣を変えて、ONと五輪コンパニオンとの座談会が開かれることになった。

当時のコンパニオンは海外留学の経験があり、数ヶ国語をしゃべれる良家の子女ばかりで、人選は記者たちにまかせられた。JOCから配布された34人のコンパニオンのリストから10人ほどに、かたっぱしから電話した。ところが、頭から断られたり、本人が帰宅していなかったりで、2時間近くかかって、OKをとりつけたのはひとりだけだった。この人が102日後に長嶋と結婚することになる西村亜希子さんだった。

あとはなんとか都合をつけることにして、待ち合わせの場所と時刻を打ち合わせた。ところがその女性は留学先のアメリカ聖テレサ大を卒業して、3ヶ月前に6年ぶりに帰国したばかりで、長嶋のことは名前ぐらいで顔も知らないという。

他のコンパニオンは夜遅くなっても連絡がとれず、翌朝やっと、ひとりだけ連絡がついたが、OOC(オリンピック組織委員会)の許可がないと出られないとの返事だった。さっそく、帝国ホテルのOOCの事務局へ飛んでいって、事務長とかけあった。事務長は「勝手に選ばれては困ります」と難色を示したが、あらためて何名か推薦してくれることになった。

昨夜、約束をした西村さんとは18:20にホテル・ニューオータニのロビーで会うことになっていた。長嶋と王と記者は、そこで西村さんと会い、その間のいきさつを話し、ここで会ったことはOOCには内緒にしてもらい、あらためて座談会に出てくれるよう頼んだ。このとき長嶋は、「プロ野球はご覧になったことがありますか?」などとかしこまって質問していたという。

そこからいったん帝国ホテルのOOC本部へ寄り、他のコンパニオン4人を加えた総勢8人で東京タワー下の「九竜園」という中華料亭へと向かった。本部で事務長が声をかけてくれたコンパニオンの中に西村亜希子さんも上手く紛れ込んでくれたのだった。

座談会では王がよくしゃべった。長嶋はさりげなくコンパニオンたちが本部に出勤する時刻を聞き出していた。翌日、体操の競技会場で長嶋がいやに真剣な顔つきで「彼女んちの電話番号わかります?」と記者にいった。メモ用紙に走り書きした番号を受け取るとそれを押しいただくようにして大事そうに内ポケットにしまった。

それからは、長嶋の猛攻撃が続き、知り合って40日目に婚約発表、そして翌年1月26日渋谷・南平台のカトリック教会で結婚式を挙げたのだった。

(出典:新宮正春著「長嶋の野望―誰よりも野球を愛する男 (The new fifties)」)

実は、上記の、ホテル・ニューオータニで王と長嶋、そして西村亜希子さんと同席したのが新宮高校の先輩で作家の新宮正春氏でした。

西  敏

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